AJACS本郷12(第三回統合牧場収穫祭)メモ、あるいは1年間『放牧』を続けてみて
■ “収穫祭”
2012年3月16日、ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)開催の統合データベース講演会: AJACS本郷12 (第三回統合牧場収穫祭)に参加しました。
当日のTwitter実況の記録は@hkanekaneさんによる収穫祭2012のまとめに(ツイートは一部非・時系列順)。
それぞれのプレゼンの録画はおなじみ統合TVにアップロードされています。
統合牧場の「牧場アクティビティ」ページにも、のちのちセットリストが掲載されるかと。
頭書のリンクにあるとおり、統合牧場収穫祭はDBCLSでRAとして働く
私のようなアルバイトの大学生・大学院生の活動成果の発表の場、
そして聴衆の会場参加とUstream配信を介した外部との成果共有の場です。
今回の場は私にとっては、この「統合牧場」で1年間積み上げてきたものたちの
ちょっとした集大成でした。
このような意味も含めて、さきほどの実況Tweet群の記録も参考にしながら、各プレゼンについてメモを。
■ Lightning Talk ×4
2007年のDBCLS設立以降、統合牧場の立ち上げからの簡単な歴史について。
統合牧場はDBCLSのうちでもRAによる研究チームであること、
今でこそ常勤スタッフであるiNutさんの明かす、RA時代から知る牧場OB・OGの業績についてなど。
内容こそ内部の人間にはおなじみでしたが、相変わらずスライドのつくりとプレゼンがお上手で
見ていて楽しいプレゼンでした。
2. 拙プレゼン。わたくし@_junk_0による
「実験家見習いが覗く統合牧場〜私にも!こんなに使える統合TV〜」。
- 統合TVとは?
- 「統合TVをつくるウェット系の学部生」という立場からの視点を活かし、実験家のための統合TVの活用方法を体験談から紹介
- それらを踏まえて、統合牧場で自分の製作した統合TVの紹介
という内容で10分超にまとめました。
個人的な反省としては、小さいUstの画面に映すにはスライドの文字色が見づらく小さすぎたということ。
逆に発表の声がよかったこと、「使う人が作るひとで自ら説明するので、とてもわかりやすい」
とコメントを頂けたことが嬉しかったです。
3. @Go_with_twillせんせーの
「統合TVを作成するお仕事 〜ツールを選んでから統合TVができるまで〜」。
彼と、この後にLTした@Taizo_Ayaseと私とは3人でRAとして同期であり、
また同じ統合TV制作部なのでプレゼン内容は被りがち…ということで、統合TVの「使い方」に主眼を置いた私と異なり、
せんせーは「統合TVづくりの現場見学」といった体で仕事の裏側を発表、と棲み分けをしたプレゼンに。
えー、彼はスライドをイラレで組んでからパワポに貼り付ける特殊技法の使い手なので
非常に細かく作りこまれたスライドを披露してらっしゃいました。
統合TVへのプレゼン動画でご確認あれ。
4. @Taizo_Ayase氏による「統合TVの制作現場から」。
統合TV関連のLT3人目。そしてせんせーにひきつづき統合TVの「作り方」についてのプレゼン。
この綾瀬氏の場合、通常の統合TV製作にプラスし「プログラミングを用いた、講演会の統合TV製作環境の整備」
という彼独自の仕事があったので、そちらの紹介も含めたプレゼンでした。
ちなみに彼の統合牧場に来るまでのプログラミング経験はゼロ。
余談ですが、彼のプレゼンは当日前夜に銀座Apple Storeで徹夜ゲットした最新iPadでのリモートコントロールによるもの。
ちなみにちなみに、統合牧場に来る前の彼は嫌Apple。
牧場での年月はヒトを変えるという実例です。
こちらのプレゼンも統合TV作製について。@Mozk_さんの場合は過去に製作された偉大な統合TV、
「解析ソフト『R』での立廻り」を説明のためにライブ配信しながらのLTでした。
ついに動く統合TVの実物を見せながらの発表、という運びです。
このように@Mozk_さんはじめ情報系に覚えのある統合TV製作スタッフの皆様には、
そのほか多くのR関係の統合TVや、WindowsでのUnix環境の整備についての統合TVなど
より専門的な知識を要する統合TV製作に携わっていただいていることも多いです。
■ 本題プレゼン×7
Lightning Talkを終え、以下ひとり30分枠の本プレゼン。
1. @synobuさんによる「Trac or tweet! 〜もしくはCSCWで恊働プロジェクト〜」。
「統合TV司令部」というtracを用いた統合TV制作班のための進捗報告&共有システムの開発のお話。
(私も常日頃、司令部にはお世話になっています…!@synobuさんに感謝m(_ _)m)
このtracやskype, githubなどのコンピュータ環境の支援を用いた共同作業をCSCW: Computer Supported Cooperative Workと呼ぶのだそうです。
統合牧場ではこれまでRA各々の作業ブログの情報統合によって作業進捗を共有してきましたが、司令部を用いることで
- ブログのサービス提供元の都合による閉鎖等で情報が失われることを防ぐ
ほか、tracを使用するメリットとして
tracのいいところ
1. wikiによるメタ情報の管理
2. チケットによるワークフロー管理
3. マイルストーンによるプロジェクト管理
4. Subversion によるソースコード管理
(@yaskazさんの実況ツイートより)
による作業プロジェクト可視化・共有サポートが、年月をまたぎ複数人数に支えられる仕事に力を発揮するようです。
そのほか完全に専門外の情報なのですが、tracの情報はSQLで呼び出すことができるらしい、とか。
そしてこのセッションは質疑応答もアツかったです。実況のツイートの引用から。
「アプリやツールでの情報共有にあまりなじみがない組織や職場にtracを導入するには?」「まず自分がログやコンテンツを少しずつ蓄えておき、何か聞かれたときに書いておいたログのURLを投げたりして、便利に使っているところを見せること」#terryman #AJACS
(@wakutekaさんの実況ツイートより)
ウェット系のラボの試薬管理や、プロトコル管理に使いたいという声も挙がったtrac。
「まずは個人で使い『便利でしょ?』と周りに機会をみて紹介する」という方法が有効、ということです。
2. @h_onoさん作製のスライドで、代打プレゼン @bonohuさん。による「来たれソムリエ!次世代統合TVへの挑戦」。
統合TVがらみの基本的な情報はLTで出してしまったので、
こちらのプレゼンを食ってしまった形になります(すみません…)
「次世代統合TV」とはこれからの統合TVの新たな試みとして、
動画にテキスト読み上げ音声をつけようというもの。
研究室や実験室での視聴を想定して、これまでの統合TV動画には音声はついていなかったのです。
今後の統合TVの進化に乞うご期待。
3. @meguuさんのプレゼン「公共データベースから必要なデータを抽出して使いやすくするだけの簡単なお仕事」。
Pubmedなど生命・医療分野に関わる論文のデータベースと、
SRA, DRA, ENA, GEOなど次世代シーケンサによる実験結果のデータベースで、
同一の実験から得られたデータであるもののIDが異なり対応していない/一度に参照することができない…
など、データには実用に問題がありました。
そのためテキストマイニングにより「機械的に関連をと」り「一覧を作ったよ!」というのが
@chalklessさん、@meguuさん、@i_87さん方のお仕事。
(具体的なデータの作成方法は@i_87さんのはてダや@meguuさんのはてダで公開予定!とのこと^^)
完成品がコチラ!↓
http://sra.dbcls.jp/cgi-bin/publication.cgi
画面左にPubMed IDと、画面右にSRA IDが対応しているのがわかります。
それからmeguuさんが語られた、今回の収穫祭プレゼンで意外と今まで触れられなかった大事なこと。
統合牧場でRAとして働くメリット
1. 生命情報形ツールの使い方知識が身に付きます。
2. 他大学・他選考の人との交流の場(これ大事だよね)
3. 自分にできることはなにかを考えるよい機会 http://bit.ly/yeBKEL #AJACS
(@yaskazさんの実況ツイートより)
偉大な仕事を「作ったよ!」の一言で済ませられてしまったり、
美麗なプレゼン(スライドに小さな写真をいくつも傾けて配置したり、画像選びのセンスが秀逸…)を
「夜な夜な適当に作りました…(^_^;)」とさらっと片付けてしまわれる(!!)meguuさんでした…!!
4. @yaskazさんによる緊急プレゼン「ここはひとつ統合DB的活動を統合する方向で」。
なんとここで飛び入りプレゼン!国立遺伝学研究所の運営するDDBJ: DNA Data Bank of Japanからいらした@yaskazさん。
呼ばれたらプレゼンを準備していくのが科学者のあるべき姿、と……φ(..)
(@ngr_tさんの実況ツイートより)
日々発表され続ける塩基配列データについて国内データバンクを果たす機関がDDBJ。
米国NCBIの運営するGenBankなどと共にINSD: International Nucleotide Sequence Database,
国際塩基配列データベースを構築しているそうです。
DBCLSとDDBJ、異なる特徴をもつ組織であるものの、情報・システム研究機構という所属を共にする同士
これからもぜひ協力していきましょう、ということでした。
5. @tabris2012による「新着論文レビューをテキストマイニング1.0:序」。
今やかなり有名になったであろう、生物系のトップジャーナルに掲載された日本発の論文に著者自身が日本語レビューするウェブサービス
「ライフサイエンス新着論文レビュー」において生物系のキーワードを抽出することが@tabris2012さんと、この次にプレゼンした@gackelNLのお仕事。
そしてこの1年で彼らが作成したのがFABS: First Author's Biological words Search、ライフサイエンス新着論文レビューの論文から生物学用語を重み付きで抜き出すプログラムです。
要は「生物学用語テキストマイニング」。
tabrisさんの発表はこのFABSのしくみについて。
単語の抜き出しが容易な英文と異なり、日本語の形態素解析は難易度が高いため
FABSではMeCabという既存のオープンソースの形態素解析エンジンを使っています。
さらにそのユーザ辞書を、生物学用語と思われる単語のスコアを予め大きく設定しておくよう
書き換えることで、キーワードとなる生物学用語を抽出していきます。
さらに抽出された生物学用語の重み付けを補正した上で、
完成したプログラムではキーワードをハイライト表示させることができるようになっています。
より詳しい方法は、上記プレゼンタイトルのリンクから見られるスライドに:)
6. @gackelNLによる「新着論文レビューをテキストマイニング2.0:破」。
前にプレゼンしたtabrisさんに引き続き@gackelNLもFABSのお仕事についての発表。
gackelが担当しているのは新着論文レビューの各レビューについてやはりキーワードを抽出し、
手動で分類したタグからレビューを検索できる「分類検索」のプログラム。
TF-IDFというアルゴリズムからレビューの特徴語を抜き出し、単語を二重に検索することもできます。
さらにgackelはプログラム作成にいたる道のりのお話も披露してくれました。
こちらも上記のプレゼンタイトルから飛んでぜひ動画を見てみてください;p
ライセンスクリアの写真素材で華麗に彩られた、見ていて楽しい発表をお楽しみいただけること請け合い。
7. @gentlementatuさんによる「オレがiPhone持ってドヤ顔するまで」。
先ほどまでに紹介した統合TV Curatedの、iPhoneアプリ版の開発がmentatuさんのお仕事。
残念ながらmentatuさんはこの3月をもって牧場をご卒業されるので、絶賛後継者を募集!
というところまでが今回のプレゼンでした。
Objective-C言語を書きこなし、XCodeの扱いは熟練、アプリ作成の工程を把握している…という
厳しい条件が要求される仕事ですが、
「アプリ開発の気合」「iPhoneへの愛」さえあれば大丈夫!(memtatuさん談
プレゼンソフトPREZIを駆使し、非常に巧みに画面の拡大縮小とトランジションを使いこなしたmentatuさんの
熟練のプレゼンは非常に美しく、上記リンクから見ることのできるプレゼン動画は一見の価値アリです。
自信を持ってオススメします。
もちろんそんなmentatuさん開発中の統合TV Curated for iPhoneのUIは途中版でありながらとてもキレイ。
完成が楽しみです。
■ 最後に雑感
これは収穫祭の目的のひとつであるかとも思うのですが、
今回このエントリを書いたのには備忘録的な意味があるのはもちろん、私が1年間この統合牧場で働いてきて
- どのような内容の活動をしているか
- この活動がどのように役立つか
を説明することで牧場に興味を持ってもらえる人が増えたり、この活動の成果を知ることで
自分の役に立つ何かを得る人が出てもらえればという思いがあります。
収穫祭に参加し立ち会ったことそのものも、私にとってはほかの方のプレゼンから
上記のようなものを得る機会だったという認識です。
生命科学を志す身として、このような少し珍しい形の場で伺う
体験談からの気づきや、知識など得られるものは多いです。
1つでも多くものにしていく機会が、自分を含めさまざまな方にありますように。
また、このような機会を支えてくださっているすべての方に
この場で感謝を述べさせていただきたいと思います。